柳原白蓮の備前焼陶板歌碑 -姑耶山-

毎年花見客で賑わう姑耶山
毎年花見客で賑わう姑耶山

 大正時代、マスコミを賑わした美貌の歌人柳原白蓮が晩年、備前焼の里を訪れ備前焼研究家との親交を物語る自筆の歌碑が建立されています。

 歌碑が建つ姑耶山について少し触れておきたいと思います。

毎年花見客で賑わう丘陵の名前は、姑耶山で修業を積み姑耶仙人となったという中国の史書にちなんで、土地の漢学者小橋平感が名付けたといわれています。平感は晩年ここに質素な庵をむすび、頼山陽、平賀元義などの大学者も訪ねたとのことです。

 姑耶山は戦後の食糧難を解消するため国策として立体農業などの開発が行われましたが、食糧事情も好転し殆どの人が転職し、耕地が減少して農業開発は中止せざるを得なくなりました。

 最後まで開拓を引き受けていた備前焼研究家の榊原勤氏は、当時の三木行治岡山県知事の支援を得てこの土地を備前焼の里を訪れる人達や地域の憩いの場所になる公園をつくろうと考え、大量のサクラやツツジ、カキやクリなどを植樹し、茶室や池、水車などを配した回遊式庭園として開発しました。昭和36年にはほぼ完成をみることになります。

 この頃、伊部出身で苦学して大学を卒業し帰郷していた原田十兵衛氏が、完成したばかりの姑耶山に白蓮さんを案内し、榊原勤氏に紹介したのが始まりです。

 柳原白蓮(本名燁子)は、柳原前光伯爵の娘として明治18年生を受けました。大正天皇の生母である柳原愛子の姪で大正天皇とは従兄妹にあたります。

 明治33年、子爵北小路の嗣子資武と結婚、まもなく破局。明治44年、九州の炭坑王といわれた伊藤傳衛門氏と再婚し「筑紫の女王」と呼ばれていました。

 そして大正10年、大阪朝日新聞紙上に「燁子の絶縁状」を掲載し世間を驚かせます。世に言う「白蓮事件」です。

白蓮と駆け落ちしたのは宮崎龍介(父は孫文の辛亥革命を支援した宮崎滔天)さんです。

「伊藤傳衛門さんと結婚して10年の後に父とめぐり会った母は、寂しくって泣くばかりの偽りの生活をかなぐり捨てても、父のもとへ走ろうという決心をしたのですが、当時、自由はないし、今日でも簡単に肯定されるはずがないのに、世間を騒がせることは覚悟していたと思うんです。それでも母にしてみれば、社会的な制裁を受けようとも、虚飾にまみれて暮らすよりは真の愛に生きようと決心したのです。

 大正10年10月22日、大阪朝日新聞紙上に妻から夫へ宛てた「絶縁状」と共に、次のような見出しの記事が掲載されました。

『同棲10年の良人を捨てて 白蓮女史情人の許に走る

悩みの生に新しく得た愛人 夫人は7歳下の法学士宮崎龍介君 -以下略-』

特ダネの好きな新聞は、必要以上に大きく扱いました。こうして一大センセーションを巻き起こしました。

 母はどの様な状態に置かれても悲観したり悪あがきすることはありませんでした。不思議なくらい強い運命の糸に導かれて、九州を出奔以来、2年後に、ようやく宮崎の家へ入ることが出来ました。」

(「白蓮 娘が語る母 燁子」発行・旧伊藤傳衛門邸の保存を願う会)

 姑耶山を白蓮さんが訪れたのは昭和36年、77歳、緑内障のためだんだんと視力が落ちていた頃でしたが茶室陶里庵で語らい、有楽荘で宿泊されています。この時詠まれた二首のうちの自筆の一首が備前焼の陶板に焼き付けられた歌碑です。

 

あひかたき

天と大地と和田津海と

極みのはてにあひよるを見ゆ

                白蓮

 今一首は、有楽草主人へと為書きのあるもので

やまの上の

あしたゆふべに君のため

山河草木みを語るなり

              白蓮

為 有楽荘主人  

 有楽荘主人とは榊原勤氏のこと。姑耶山開発に情熱を注ぎ四季折々の美しさを醸し出す回遊式庭園に一生を捧げた心意気を感じたのでしょう。

 姑耶山からの帰途、京都に立ちより間もなく失明したと伝え聞いた榊原さんは、白蓮さんの胸像を備前焼で作りお送りしたところ、胸像を指先で撫でて確かめながら大変よく出来ていて自分に似ていると大層喜ばれたと夫の龍介さんから伝え聞いています。

 勤氏の子息三人は現在備前焼作家として活躍していますが、中でも次男清人さんは白蓮さんが姑耶山を訪れたときのことも今でもよく覚えています。

白髪で小柄な方ですが大変品のよい美しい方で、父の勤さんともども少し耳が遠くなっていて、話しの分かりにくい部分は大きな声で通訳をしたと話しています。昭和38年、清人さんの結婚式にはお祝いの一首を色紙に認めて贈って頂きましたが、龍介書と添え書きされています。


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私も生きている。

  天人窯・榊原 清人

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      ロクちゃん
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